中世の旅とこころ
『新古今和歌集』の旅の歌としてよく知られているのは、藤原定家の
旅人の袖吹きかへす秋風に夕日さびしき山のかけはし (953)
・・・でしょう。
秋風に吹かれながら夕日を浴びて、心ぼそい山のかけはしを渡ってゆく旅人の姿が印象的です。
「旅人の」ととらえることによって、作者はその旅人を眺める立場に立っています。
そのことからも察せられるように、これは「旅歌とてよめる」という題によって作られたものであり(建久7年9月18日内大臣家)、作者自身は都の貴族の邸宅にあってのものです。
・・・しかし、そこに集った人々は、この一首を味わうことによって、それぞれの脳裏に旅の心を抱いたのでしょう。
気軽には行くことのできぬ旅であるだけに、憧憬をこめて。
じっさい、『新古今和歌集』の旅の歌というのは、ほとんど題詠の「旅のこころ」をテーマにするものです。
それは中世和歌すべてに共通してみられるところでもあります。
このことは考えてみれば当然でもあるでしょう。
現在のような旅館があるわけでもなく、交通機関とて不便きわまりないものでした。
『万葉集』では「草枕旅は苦し」(4406)と故郷の人に伝えて欲しいというのが見られましたが、中世においてもそれほど発展していなかったのです。